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「Empower the Gamers」
~『バーチャファイター』から『VIRTUA FIGHTER CROSSROADS』へ受け継がれる精神 〜
3Dゲームの黎明期から今日に至るまで、セガとNVIDIAは30年にわたりグラフィックステクノロジーの進化をともに歩んできました。2026年7月に開催された両社の歴史的な絆と最新技術をお披露目したイベントの模様とともに、その足跡と未来への展望をたどります。
セガのミッションは「Empower the Gamers」
時に人々を勇気づけ、時に創作意欲をかき立て、前に進む力を与える。そうして刺激を受けた人々が新たなクリエイターとなり、次のエンタテインメントを生み出していく。自らの創造力で世の中に新たな価値をもたらすと志してきたセガは、常に、新しいカルチャーの循環を生み出す発火点でありたいと願っています。
新しい体験を創り出すことは決して簡単なことではありません。激しい開発競争にしのぎを削り、時代の一歩先を行く挑戦を続けるなかで、失敗や挫折も幾度となく経験してきました。それでもセガは「創造は生命(いのち)」の精神を大切にし、挑戦で得たものを次の創造へとつなげながら、何度でも這い上がり、前進してきたのです。
その象徴的なタイトルのひとつが『バーチャレーシング』(1992年)、そして『バーチャファイター』(1993年)。手掛けたのは、セガの鈴木裕さんです。そして、この2作に魅せられたのが、若き日のジェンスン・フアンさんと、弱冠26歳でF1のエンジン開発を手掛け当時ホンダの副社長だった入交昭一郎さんでした。
「本当は3Dでウミウシをつくりたかった」と語る鈴木裕さん。鈴木裕さんと元セガ社長の入交さん、お二人のインタビューを通じて、転んでもしぶとく立ち上がり、人々を驚かせ楽しませるものを創り続ける。そんなセガらしさと、セガが歩んできた道、そしてこれか ら切り拓いていくエンタテインメントカルチャーへの道(SEGAWAY)をたどります。
最新スーパーチップ「RTX Spark」の上で動く次世代の『バーチャファイター』
2026年7月15日、秋葉原。ゲーマー向けに開催されたNVIDIAのイベントには、同社のジェンスン・フアンCEO、セガの里見CEO、内海COOに加え、元セガ社長の入交昭一郎さん、そして『バーチャファイター』の生みの親である鈴木裕さんが登壇しました。
会場のボルテージが最高潮に達したのは、新しいスーパーチップ「NVIDIA RTX Spark」を搭載したPC上で動く『VIRTUA FIGHTER CROSSROADS』のゲーム画面が、初めて公開された瞬間。会場を埋め尽くしたゲームファンから、大きな歓声が上がりました。
登壇したフアンさんは、30年の歩みを振り返り、こう語ります。
「セガの援助がなければ、NVIDIAが今日お伝えしていることを実現できなかったでしょう。」
今、世界をリードするテクノロジー企業となったNVIDIAの原点には、セガとの深い信頼関係と互いの挑戦がありました。
2Dから3Dへの転換期。「NV1」との出会いとセガの挑戦
両社の物語は30年前、ゲーム業界が2Dから3Dへと舵を切った時代に遡ります。
セガは1992年、3Dポリゴン描画機能を搭載したアーケード基板「MODEL1(モデルワン)」を開発し、これを用いた『バーチャレーシング』をリリースしました。ドット絵や疑似3Dが主流だったゲーム業界が、本格的な3Dポリゴン時代へと転換する契機となった歴史的タイトルです。さらに翌年には、世界初の3D格闘ゲーム『バーチャファイター』(1993年)を発売。ポリゴンで描かれたキャラクターが格闘を繰り広げるビジュアルはあまりに斬新で、ゲームファンの度肝を抜きました。
では、なぜ鈴木裕さんは、そこまで3Dにこだわったのでしょうか。
当時は現在の「GPU」という概念すら存在せず、セガサターンでは32ビットRISC CPU「SH2」を2基搭載し、並列処理による力技で膨大な3D演算をカバーしていました。それでも未来のコンテンツを見据えたセガは、専用3Dグラフィックスチップの採用を決断。複数の企業と共同開発を模索するなかで出会ったのが、当時スタートアップだったNVIDIAでした。
鈴木裕さんは、当時の開発文化とフアンさんとの最初の出会いを、こう振り返ります。
「アーケードで先進技術にチャレンジして、そのノウハウを家庭用機に落としていく。かっこよくいうと、F1チームがF1で得た技術を一般車に落としていくようなイメージでした。ジェンスンさんとは仕事の話で来ているのに、僕のゲームの話を熱心にされて。後でファンだと知ったのですが、バーチャファイターをきっかけにシェーディングやテクスチャマッピングなどの話に没頭したことを覚えています」
「ジェンスンさんに久しぶりに会えて懐かしくもあり、昔に戻った気がしました」と、鈴木裕さんは笑います。
当時のNVIDIAは、初のグラフィックスチップ「NV1」の普及に向けたブレイクスルーを探していました。セガはその熱意に応え、PC移植版『バーチャファイター リミックス』や『パンツァードラグーン』をNV1にバンドルして発売するという、強力なバックアップを行います。
技術と人柄を見て決断した「500万ドル」の資金提供
「NV1」での協力をきっかけに、両社は次世代チップ「NV2」の共同開発へと進みます。NVIDIAが提案した「四角形による曲面描画」のアプローチは、理論上は計算量を大幅に削減し、滑らかな表現を可能にする極めて先進的なものでした。しかし実装段階では、製品化に向けた課題が残されていました。
折しも業界全体では、MicrosoftのDirectXをはじめとする「三角形ポリゴン」を用いる方式が世界標準となりつつありました。開発に粘りを見せていたNVIDIAでしたが、フアンさんはセガの成功を最優先に考え、「うちではなく他社の製品を採用すべきだ」と入交さんに率直に告げ、共同開発の中止を申し出ます。
開発中止により、NVIDIAは経営危機に直面します。そのとき入交さんが下したのが、約500万ドル(約5億円)の資金提供という決断でした。
「ジェンスンは技術の可能性を信じ、常に新しい分野を拓く技術に挑戦していた。そのような信念と行動が、AI技術をリードするNVIDIAを作りあげたと思う」「周囲の反対もあって大変だったよ(笑)。でも彼と仕事すると非常に楽しいし、裏表がない。僕のポリシーというのは人を見るんですよね。こんな素晴らしい才能ある人物がここでつまづくのは惜しい、成功させたいと思ったんです」(入交さん)
技術的な選択としては袂を分かつ形となりましたが、誠実さと人物への強い信頼が、危機にあった創業期のNVIDIAを救うことになったのです。
「困難な状況にあったあのとき、微かな可能性と彼の人柄を信じてジェンスンに賭けた自分を、誇りに思う」と入交さんは静かに語りました。
その後、NVIDIAは世界的なGPUメーカーへと飛躍を遂げます。セガとの関係も共同開発の中止で途切れることはなく、現在に至るまで、ゲーム市場におけるユーザー体験の向上に向けた技術連携が続いています。アーケードゲーム分野では、2005年、アーケード基板「LINDBERGH(リンドバーグ)」でNVIDIA製GPUを採用して以来、一貫してNVIDIA製GPUを活用しています。また『バーチャファイター』シリーズ初の公式グローバル大会「VIRTUA FIGHTER Open Championship」では、NVIDIAに大会スポンサーを務めていただくなど、技術面にとどまらない交流も続いています。
未来へ受け継がれる「創造は生命」の精神
『VIRTUA FIGHTER CROSSROADS』の最新デモを見た鈴木裕さんは、「当時のスーパーコンピューターでもできなかったことが、今はノートPCで動いている」と技術の進歩に驚きながら、うれしそうにこう続けました。
「もしバーチャファイターを今の技術でやるんだったら、俺もああするだろうと思うところも結構あって。ですから、バーチャファイターの価値観とか理想像とかっていうのが、遺伝子としてちゃんと受け継がれているなというふうに感じられますね」「バーチャファイターの信念や大事なところは、僕がいなくなっても受け継がれている」鈴木裕さんがそう語る表情には、確かな手応えがにじんでいました。
最後に、偉大な開発者でもあるお二人にこんな質問を投げかけてみました。「これからのクリエイターへ、どんなメッセージを贈りますか?」
自身もエンジニアであった入交さんは、「創造は生命」は本当に素晴らしいことばだといいます。「新しい技術を使うことによって、新しい世界が広がって新しい遊びが生まれる。テクノロジーの進歩に沿って、新しいエンタテインメント形態を作り出してほしいですね」入交さんは、にっこり笑うと続けました。「それから、新しいキャラクター」。
鈴木裕さんは、こう例えます。「誰も入ろうとしない山に入ったら、松茸の山だったりする。分からないからやらないのではなく、分からないからこそチャレンジしてみる。その結果を見たら、次の方向が見えてきます」。そして未来を目指すすべてのクリエイターへ、「どんどんチャレンジしていってほしい、というのがメッセージかな」。
時に人々を勇気づけ、時に創作意欲をかき立て、前に進む力を与える。かつて『バーチャファイター』の画面に心を動かされた一人の若き経営者が、やがて世界を変えるチップを生み出したように、いま刺激を受けた誰かが、次のエンタテインメントを生み出していくことでしょう。
新しいテクノロジー、新しいキャラクター、そして誰かの胸を打つアイデアの塊。受け継ぎ、受け渡していくバトン。いまクリエイターたちが生み出した「創造」はきっと、まだ名前も知らない次のクリエイターを動かす、きっかけになることでしょう。『VIRTUA FIGHTER CROSSROADS』が描き出す景色の先へ。セガが歩みを進める道は、これからも続いていきます。





