Vol.27
06.02.09 更新
小学生男児を中心に絶大な人気を博している『甲虫王者ムシキング』。今回はシリーズ初の育成ゲームとなる、携帯型液晶ゲーム『そだてて!甲虫王者ムシキング』(2006年2月23日発売)の、竹崎忠プロデューサー、久保敏正アシスタントプロデューサー、梶智樹 企画生産担当の三名による特別座談会をお送りします。

『そだてて!甲虫王者ムシキング』プロデューサー
竹崎 忠(たけざき ただし)
1993年セガ入社。パブリシティ体制の構築やセガ公式サイト、セガダイレクトの整備などさまざまな業務を担当。現在はキャラクターマーケティング部とキャラクター部の部長を兼任し、セガを代表するキャラクターの幅広い展開を計画中。

『同』アシスタントプロデューサー
久保 敏正(くぼ としまさ)
ドリームキャスト時代はハード担当。2000年より、セガダイレクトにて「久保店長」として活躍。現在は、キャラクターマーケティング部にて、『甲虫王者ムシキング』や『オシャレ魔女 ラブ and ベリー』などのグッズ製作を統括。

『同』企画生産担当
梶 智樹(かじ ともき)
メガドライブからドリームキャストまでのハード及びソフトの生産を担当し、現在もコンシューマー商品の生産購買業務を担当している。
まず、『そだてて!甲虫王者ムシキング』の企画がスタートしたきっかけを教えてください。
[竹崎]
『甲虫王者ムシキング(以下、ムシキング)』のカードホルダーや『オシャレ魔女 ラブ and ベリー(以下、オシャレ魔女』のフィギュアなど、ゲームに直結しているグッズに関してはセガがコントロールし、セガのクオリティで開発しなければならないという思想のもと、私の所属するキャラクターマーケティング部が製作を担当しています。キャラクターマーケティング部では常に、もっとキャラクターを活かせる企画ができないものかと模索しているんですよ。
ある時、『ムシキング』はGBAやDS向けにゲームを開発しているけれど、もっと他の形でゲームを提供する方法はないのだろうか? と考えたんです。つまりゲームを供給する形というのは、決してプラットフォームに依存するわけではなくて、いろんなプラットフォームの在り方があるということですね。そんな中から、LCDゲームならばゲーム機を持っていない子供も単体で遊べるし、持ち運ぶのも簡単で子供たちのニーズにも合うのではないか……、と思いあたったんです。

▲本体はムシを模したデザインで、「カブトムシ」と「ノコギリクワガタ」の2バージョン。どちらも、本体の色は緑と茶を用意。

▲本体には、ムシキングのシンボルでもあるグー・チョキ・パーのボタンを再現。この3つのボタンを使用してゲームをプレイする。
実際にLCDゲームとして企画がスタートし、開発はどのように進行していったのでしょうか。
[竹崎]
よい商品をつくろうと思ったら、まず何より良い企画がなければいけませんよね。最初は僕と久保店長で企画をつくろうかと考えたのですが、僕らはゲーム作りのプロじゃないので、やはり難しい(笑)。そこはプロフェッショナルな方にお願いするのが一番だろう、ということになりまして……。
じゃあ、その企画をつくれる人は誰なのか。……僕はこの一年半くらい、フリーランスになった桜井政博さん(代表作:任天堂『星のカービィ』、任天堂『大乱闘スマッシュブラザーズ』など)と親しくさせていただいてまして、桜井さんが『ムシキング』のことを大変面白いゲームだと認識してくださっていることを知っていたし、桜井さんのゲームづくりにおけるこだわりとか、スタンスなどが、僕の中で非常にピッタリきていて、LCDゲームのような制約が多い中でシンプルに面白いゲームデザインをするのに桜井さんほど向いている人はいないだろう、と「ピン」ときたので、思い切ってお願いをしたんです。
[久保]
それが去年の4月頃のことです。その後、桜井さんに「この通りに完成することができれば間違いないと確信できる素晴らしい企画書」をつくっていただきました。
[梶]
今度はそれを具現化しなければならないんですが、まずはハードの部分。実際にどこまで桜井さんの企画書を再現できるのか……。それが問題でした。
[竹崎]
企画があって、ハードがあって、ゲーム部分のプログラム(ソフト)がある。この三角形がバランスよくなければよい商品はできませんからね。
[梶]
海外も視野に入れ、ハードの製作をどこに頼むか吟味したのですが、国内のエスアイエレクトロニクスにお願いすることに決定しました。エスアイエレクトロニクスは、元セガの家庭用ハードを開発していたメンバーが多数所属するグループ会社で、かつてビジュアルメモリを開発した人間もいるし、技術的な信頼がありました。セガのものづくりの姿勢もよく理解してもらっていますしね。
[竹崎]
エスアイエレクトロニクスに関しては、精一杯できるところまでがんばってもらえるという信頼関係がありましたから。
[梶]
ええ。
[竹崎]
そうなってくると、プログラムの方だって、相当な腕を持った人に担当していただかなければ、この三角形のバランスがとれなくなってくる。ということで、メガドライブユーザーとしては憧れの「天才プログラマー」であり、ドリームキャストのビジュアルメモリを使ったゲームも開発した経験のある内藤寛さん(※株式会社クライマックス代表取締役。代表作『クライマックスランダース』『ランナバウト』など)にお願いをしたんです。
[梶]
僕らがつくってるLCDゲームは、おもちゃじゃなくてゲームなので、簡単に見えても実際にさわってみるとぎゅうぎゅうに中身がつまっています。そういったプログラムを組めるのは、やはりプロフェッショナルでなければいけませんよね。
[竹崎]
見た目と実際の中身は、けっこうアンバランスなんです(笑)。こんな小さな機械に驚くほどたくさんの企画を詰めこみました。
それをハード的にどこまで実現できるかという部分を、エスアイエレクトロニクスは何としても実現しようとがんばってくれたんです。でも、それはハードに対峙するプログラマーが優秀じゃないと成り立たないですよね。ハードスペックとソフトプログラム、どちらかが「それはできません」と言ってしまうと、もとの企画自体がどんどん縮小してしまいます。「限界越えてがんばろう」という強い意志を持ったトライアングルができあがったことで、はじめてこの企画が具現化したのだと思っています。

▲タマゴ→幼虫→サナギ→成虫へと成長する

▲エサの与え方により、育つムシの種類が変化

▲成虫は全部で10数種類。名前をつけて育てる
音に関しても、お話を聞かせてください。
[竹崎]
ゲームを遊んでいる時にはいろんなシチュエーションがあるわけで、悲しい展開の時には悲しい気持ちを代弁する音楽があり、勇ましい時には勇ましい気持ちの音楽があり、うれしい時にはうれしくなる音楽がある。ゲーム内で行われていることと音は常に一致していくわけだから、そこにはそれぞれの状況にもっともふさわしい音がなければいけないということをディレクターの桜井さんが意見されて、ちゃんと情感を伝えることができるプロフェッショナルな人、ササキトモコさん(※代表作『ルーマニア#203』『ナイツ』など))にサウンドをお願いしました。
ササキさんは初め資料だけを見たときにはピンとこなかったみたいなんですが、実際に実物をさわったり、スタッフとメールでやり取りしているうちに、「なんと男のロマンのつまったゲームなのだろう」と思ってくださったそうです。例えば、ムシがやられた時のスローモーション演出などを見て、ここまで凝っているのなら、その動きに合った「男のロマン溢れる音」をつけなければいけないな、と(笑)。
[梶]
実は、音を鳴らすことで滅茶苦茶電池を消耗するんですよ。これは電圧の問題なんですが、電池がどれだけ持つかっていうことは、遊ぶ側にとってはとても重要な問題なんです。だから、その頃はいかに電池を消耗させないことができるかという工夫を重ねていた時期でして、正直、音なんか鳴らなくたっていいじゃないか、くらいに思っていたんですよ。
……でも、いまあらためてプレイしながら思うのは、やっぱり音がないと駄目ですね。みなさんにも一番大きな音の設定で遊んで欲しいくらいです(笑)。それくらい音っていうのはゲームにとって、大切な要素だったということが、音を出してプレイすることによってよくわかりました。
[竹崎]
『そだてて!甲虫王者ムシキング』はセガがつくったから、最初から「ゲームのつくり方」をしたんですよね。自分で企画を立てて、それに見合うハードをつくって、ソフトをつくる。ソフトは企画、プログラム、サウンドそれぞれの担当がきちんといて。ただ、ハードは8ビットのCPUにモノクロの液晶画面で、音は単音というハード的制限があるだけ。まぁ言ってしまえば、結果的に「ファミコンのちょっと前の時代の制約の中で、今の企画力で思う存分ゲームをつくってみよう」というプロジェクトになったわけです(笑)。
では、あらためて『そだてて!甲虫王者ムシキング』は、どんなゲームなのか、簡単に内容を説明していただけますか?
[久保]
これは桜井さんの企画書に書かれていたキャッチフレーズなんですが、「そだてて!きたえて!たたかえ!」という言葉がすべてを表していると思います。これまでのムシキングのゲームには、ムシを育てる要素がなかったのですが、『そだてて!』では卵から幼虫、幼虫からサナギ、そして成虫へと育てるところからスタート。成虫になると、相手のムシと戦ったり、ミニゲームをすることで、わざや食べ物を手に入れ、どんどん自分のムシを鍛えていくことができます。
[竹崎]
対戦ができるところも肝ですよね。『甲虫王者ムシキング』のゲーム性の一番素晴らしいところは、「じゃんけんという単純な遊びをベースにしながらも、そのグー・チョキ・パーに重みをつけたら、どれだけじゃんけんが戦略的な遊びになるのかということを発明したことだ」と桜井さんがおっしゃっていたので、この遊びの再現にはこだわりました。
[久保]
一度、バトルをしてもらうとわかるのですが、エフェクトがほんとにすごいんです。こんな綺麗に絵が動くんだ、動きもなめらかだ……と。バトルは、内藤さんが最初にプログラムを作られたときに、みんなが盛り上がった一番のポイントでした。これだったらLCDの画面でも迫力ある戦闘が楽しめるね、と。
[梶]
普通のLCDゲームだったら、戦闘にしたってガーンと一枚絵が出て、カタカナで「カチ!」とか「マケ!」と表示されて終わりだと思うんですが、『そだてて!甲虫王者ムシキング』の場合は違います。とにかく演出に凝ってるんですよ。
[竹崎]
例えば、戦闘中ほぼ互角の時は、「どちらが勝つかわからない」エフェクトと緊迫感をしっかりとユーザーに見せてから勝負がつくようにしたい、であるとか、作りこむ中でもとの企画書にない仕様も増えていきました(笑)。
……内藤さんは、「うーん、そうするとアルゴリズムをすべて修正しなければいけないから、スケジュール的にはきついなぁ」とか言いながら、徹夜でつくってくれたりするわけです。極端に言うと、プログラム側は「できません」って言っちゃうことができるんですよ。だって、みんなプログロムのことはわからないから。「プログラム的に限界です」とか「容量がもう全然ありません」と言ってしまえば逃げられる部分だってあるんです。でも、それはしちゃいけないプロジェクトだと……。子供が遊ぶものだし、これだけみんなが力を合わせてつくってるものなので、ここはプライドをかけて限界までやってやろうと思って仕事をした、と内藤さんにおっしゃっていただいたのが印象的でした。

▲4種類のミニゲームでムシをきたえたり

▲手に入れた「わざ」を装備して、対戦しよう!

▲赤外線通信機能を使って、友達とも対戦可能
ほかに、『そだてて!甲虫王者ムシキング』ならではの「こだわり」がありましたら、教えてください。
[竹崎]
このグー・チョキ・パーのアイコンは『ムシキング』の象徴だから、LCDゲームになっても絶対再現しなくてはならないとこだわっていましたね。
[梶]
ボタンの間隔が狭いので、機構的にも印刷的にもちょっとつらいかな、と思って、実際に3つのボタンを横一列に並べたこともありましたし、誤入力も含めて、いろいろな形を検討してみました。しかし、グー・チョキ・パーのボタンに関しては、どうしても譲れない部分だったので、エスアイエレクトロニクスにがんばって再現してもらいました。

▲『そだてて!甲虫王者ムシキング』にはデコレーションシールが同梱。自分仕様にカスタマイズすることができる。

▲ネックストラップもカブト、クワガタの2バージョンが同時発売。
最後にメッセージをお願いします。
[梶]
おもちゃじゃないLCDゲームということを目標につくったので、ぜひ遊んでみてください。思わぬ誤算は、大人が遊んでも面白かったことかな(笑)。
[久保]
ドリームキャスト時代にハード担当していて、ハードがなくなってしまった時はすごく悲しかったけど、「またいつかハードができればいいな」という思いの第一歩が踏めたかな、と。すごく幸せなプロジェクトでした。
[竹崎]
『ムシキング』というゲームが、セガのみならず、誰ひとり持っていなかった領域を切り開いたゲームだということを、スタッフみんなが認識し、リスペクトしていました。『ムシキング』は、シンプルだけど、非常に奥深いゲームだ、と。
その『ムシキング』をLCDゲームにしたら必ず面白いものができあがるに違いないって、スタッフ全員がイメージすることができたから、みんなが迷わず全力で取り組めるプロジェクトになったんだと思います。
これを機に、世の中のたくさんの人に楽しんでもらえる新しい商品をもっともっとお届けすることができたらいいなと思います。『そだてて!甲虫王者ムシキング』は、子供が遊べるように作ったと言ってはいますが、ぜひ親子でも、大人同士でも楽しんでいただきたいです。それだけの面白さを詰め込んだ商品だと自信をもっています。