セガのゲーム運営力を武器に、グローバルで戦う── 専門組織が目指す未来
モバイルゲーム市場の成熟による変化やグローバルで様々な価値観を持ったユーザーへの対応のために、ゲーム運営には今まで以上の知見が求められるようになっています。そのような背景から、セガでは2024年に、運営に特化した新組織「オンラインモバイルパブリッシング本部」を設立。第3事業部・第4事業部から“運営”という機能を切り出し、より専門的かつ横断的なチームとして始動しました。
今回は、組織を率いる本部長の木岡勝利氏、副本部長の吉原琢朗氏、ビジネスプロデューサーを担う長瀬健裕氏の3名に、組織立ち上げの背景からグローバル展開の難しさ、今後の展望を聞きました。
ゲームの運営の最前線を担う3名の歩みと現在地
まずはみなさんの経歴と、現在の役割について教えてください。
木岡
私は2000年にアルバイトとしてセガに入社し、PCコンテンツのデバッグからキャリアをスタートしました。その後、プロデューサーとしてPCやモバイルのタイトルを担当し、セガネットワークスの立ち上げにも関わりました。
セガへの統合を経て第4事業部にも所属しましたが、2025年4月からはオンラインモバイルパブリッシング本部の本部長として、この組織の運営を任されています。
吉原
私は広告代理店を数年経験後、当時のグループ会社のダーツライブゲームスでプロデューサー経験を経て、2013年にセガに転籍しプロダクトマネージャーやマーケティングプランナーとして複数タイトルを担当しました。2022年に米国に赴任してSega of Americaでの業務も経験しました。
現在はオンラインモバイルパブリッシング本部でグローバルタイトルの運営支援をしています。
長瀬
2012年に中途入社し、セガネットワークスの立ち上げ時に運営チームにジョインしました。その後、いくつかのモバイルタイトルの運営責任者を務め、本組織を立ち上げました。
現在はビジネスプロデューサーとして、主力プロジェクトの推進を担っています。
専門性の高まりとグローバル戦略を背景に「運営」機能の独立
オンラインモバイルパブリッシング本部を立ち上げた経緯を聞かせてください。
木岡
オンラインモバイルパブリッシング本部は、第3事業部・第4事業部から独立した「運営」に特化した部署です。モバイルゲーム市場が成熟したこと、海外の市場開拓の重要性が増して様々な国籍や価値観を持つユーザーにゲームを提供するようになったことで、タイトルに求められる専門性が高まり、一つの部署ですべてをまかなうことが難しくなってきました。
開発・運営・マーケティングの役割が複雑化してきたことで、それぞれの機能に特化した横断的な組織への再編が必要になってきたのです。
長瀬
海外とのやり取りやデータ活用など、タイトル運営の現場は想像以上に高度化しています。運営機能を切り出したことで、組織としての機動力も上がりましたし、結果的にすごく良い形になったと思います。
チームとして、どのようなミッションを掲げているのでしょうか?
木岡
モバイルゲーム、オンラインゲームの運営モデルのことを「Game as a Service」というGaaSモデルと呼んでいますが、そのGaaSモデルをグローバルでしっかり展開していくことが私たちのミッションです。日本国内では一定の成功体験がありますが、それをそのままグローバルで展開しても通用しません。だからこそ、世界の市場に合わせた“再定義”が必要だと思っています。
そのためにも、開発・運営・マーケティングの三位一体体制を明確にし、各機能が専門性を持って動く必要があるでしょう。
長瀬
だからこそ、私たちは“運営のプロフェッショナル”としての自覚を持ち、サービスとしての価値を最大化することに注力しなければなりません。
特にグローバル展開を見据えたとき、ユーザーの期待値や市場の特性は国ごとに違います。そうした前提に合わせて運営の考え方も変えていかなければなりません。
海外でガチャが通用しない? 運営戦略に必要な視点の切り替え
グローバル展開を進めるうえで、日本市場との違いをどう捉えていますか?
吉原
たとえば、海外では「ガチャ文化」は主流ではありません。日本ではキャラクターへの愛着やコレクション性が重視される傾向が強く、ガチャの仕組みがそれをうまく支えていますが、海外にはそのような文化的背景はありません。
代わりに重視されるのは、ゲームプレイの体験そのものや、報酬の透明性、バトルパスのようなシステムです。ですから、現地のユーザーに受け入れられる運営方法を採るには、私たちもかなり意識を変える必要があります。
長瀬
実際、同じタイトルでも、日本と海外でまったく違う運営方針をとるケースがあります。とくに米国などでは、「Pay to Win(課金優遇)」への拒否感が強い。なので、施策の立て方やKPIの見方も大きく異なります。
ただ、完全に分けて運営するのではなく、「どこまで共通化して、どこから最適化するか」は毎回議論します。戦略的に“地域を区切る/区切らない”の判断が求められるフェーズですね。
木岡
海外市場は広く、「アメリカファースト」なのか、「アジアファースト」なのか優先する地域を考える必要があります。どの地域を優先するかは立ち上げるタイトルにもよりますが、「アメリカファースト」で考えた場合では、アメリカに重点を置きつつヨーロッパ、アジア各国の特性に対応していく形をとります。
特に中国や韓国のゲーム企業は、グローバル展開の知見も豊富で、今や本当に脅威になっています。だからこそ、我々も世界基準で“当たり前”と思われる運営スキルも取り入れていかなければなりません。
吉原
「グローバル知見を高めたい」という希望があれば、アメリカの拠点、Sega of Americaがあるので出向することもあります。今も複数名が出向しています。
「リリースは始まり」──長く愛されるゲームを生むための“柔軟な開発”
ゲームを作るうえで意識していることを聞かせてください。
木岡
長く愛される、ユーザーに満足してもらえるゲームを作ることです。そのためには、ユーザーに対して価値を提供し続けなければなりません。ゲームは完成した時点がゴールではなく、むしろスタートライン。プレイヤーの反応や市場の変化を見ながら、必要に応じて柔軟に機能を追加したり、設計自体を見直したりすることもあります。たとえば『セガNET麻雀 MJ』など、アップデートや改善を重ねて評価が上がり、右肩上がりで成長しているタイトルもあります。
日本ではあまり見られませんが、海外のタイトルは、仮説を立ててミニマムでテストしてみる、その結果を受けて補正をかける、という試行錯誤を繰り返してタイトルを拡大していくスタイルが多く見られます。2023年、『アングリーバード』を開発しているロビオ・エンターテインメントがグループインしたのですが、グローバルで活躍しているロビオの知見や考え方は、セガとは違う部分が多々あり、とても勉強になります。
長瀬
逆に言えば、「最初から完璧なプロダクトを目指さない」ことも大事だと思っています。もちろん丁寧に作るのは大前提ですが、長期運営を前提としたタイトルは、あとから手を入れやすい構造や仕組みになっているかが重要です。
なぜならゲームを作り始めてから、実際にリリースするまで2~3年のタイムラグがあるため、その間にトレンドなども変わってしまうからです。そのため、リリース直後のデータを分析して、ユーザーの期待や行動を捉え、そこに合わせて最適化していくんです。
長期でタイトルを運営するために、大事にしている考えなどはありますか?
長瀬
新規開発中は、常に「今、何が求められているか?」を問い続ける柔軟さが大切です。私たちの組織では、開発チームとのやりとりの中でも、最新の市場情報や他社事例などを共有し、運営施策内容のブラッシュアップを重ねています。現場の感度を高く保つことで、「今、届けるべき体験とは何か?」を見失わずに済むのです。リリース後は、「目新しさを入れつつも、ユーザーの期待を裏切らないこと」が大事です。
木岡
長期のタイトル運営には、開発と運営の連携が欠かせません。開発と運営は別組織ですが、いかに密にコミュニケーションできるかが重要です。むしろ開発段階から運営チームが入り込み、施策や機能にフィードバックをかけていく体制が理想だと思っています。また、定期的にメンバーのジョブローテーションをして、別タイトルの知見を活かしたり、広い視野を持てるようにしています。
運営視点で「この機能は運用しやすい」「このKPIに影響が出やすい」といった知見を、初期段階から反映できれば、リリース後の立ち上がりもスムーズになります。タイトルによっては、運営主導でプロトタイピングを回すケースもあり、そうしたアプローチも今後増やしていきたいと考えています。
AIは万能じゃない。企画・運営に求められる“問いを立てる力”
AIは、どのように取り入れていますか?
長瀬
AIは特性を活かして使っていますね。たとえば分析の補助やチェックなど。特に倫理的な観点やポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)のチェックに、AIを活用することで、より精度高く、かつスピーディに対応できるようになっています。
ただ一方で、「AIにすべてを任せてしまう」というわけにはいきません。何を分析するか、どんな問いを立てるか、考えるのは人間の仕事です。むしろAIが発展していくほど、「問いの立て方」「判断の妥当性」が重要になってくると感じています。だから今、分析や企画の仕事においても“思考力”や“感度”がより問われるようになるのではないでしょうか。
吉原
たとえばグローバルタイトルの運営においては、現地の文化的背景や生活スタイル、ユーザーのリアクションの違いをインプットするのにも使っています。
ただ、それらは人間が“肌感覚”で捉えなければなりません。AIはその補助にはなりますが、最後は人間が判断する部分が多いと感じています。
世界基準で“セガらしさ”を届ける。目指すは自律型×共創チーム
今後、組織としてどのような姿を目指していくのでしょうか?
木岡
私たちは“運営専門組織”として立ち上がったばかりですが、将来的にはモバイルタイトルのグローバル展開を強力にリードできる存在になっていきたいと思っています。そのためには、開発・運営・マーケが対等に連携し、それぞれの専門性を活かしながら価値を最大化する必要があります。
たくさんの関係者がいる中で、一人ひとりが主体性を持ち、自ら動けるチームにしていきたいですね。組織の形が変わっても、“ユーザーにどう喜んでもらえるか”という本質は変わりません。その姿勢を貫きたいと思っています。
長瀬
グローバル展開を強化していく中で、中国企業の合理性やスピード感から学ぶことも多くあります。一方で、私たちにはクラフトマンシップや遊び心といった、セガならではの強みもある。
だからこそ、世界水準の運営力と、セガらしい魅力の両立を目指していきたいです。ただ受け身でデータを分析するのではなく、ユーザーの体験を主体的にデザインしていけるような運営をしていきたいですね。
吉原
これからは、“リリース一本勝負”の時代ではなくなっていくと思っています。海外で主流になっているアーリーアクセスやソフトローンチを活用しながら、仮説検証型で育てていく開発・運営のあり方がより重要になる。
そのためにも、ユーザーと継続的に向き合いながら、共にサービスを育てていく姿勢が求められます。そういう“しなやかさ”のあるチームを、これからさらに作っていきたいですね。
それらを踏まえて、どんな人がこのチームにマッチすると思いますか?
木岡
ゲームリテラシーが高い人、ユーザーのことを深く考えられる人です。最終的には「遊んでくれるユーザーにどう届けるか」に行き着くので、届けるための戦略の理解が高いといいですね。また、「Game as a Service」という考え方をしているので、ユーザーにしっかり向き合い、動向やニーズをキャッチアップした上で、開発と協力する必要があります。それぞれが自分の専門性を持ちつつも、チーム全体の目的に向かって補完し合えるような関係性を築けるのが理想ですね。
長瀬
セガは、開発と運営のチームがわかれているんです。一般的にいうと、開発はプロダクトアウト、運営はマーケットインするところ。わたしたち運営はお客さんの声をしっかり理解してどう届けるかを最適化していく。数字が強い人、顧客志向が強い人など、マーケットインの発想で、論理的に考えながら運営に面白さを見出せる人、運営に特化していきたい人が向いていると思います。
また、セガは今までの歴史を大事にしながらも、新しいことに常にチャレンジしていてやっていることの幅が広いんです。専門性を育てる体制にはしていますが、他のことがやりたいときに、転職せずとも社内でいろんなことができるのが良いところだと思います。
吉原
私はグローバル領域を担当している立場として、感度、情報収集力と、異文化に対する柔軟さはとても大事だと思っています。たとえば、いろんな国のゲームを遊んでいるとか。海外のユーザーは日本とは違う基準でコンテンツを評価しますし、日々の変化も早い。そういう中でもブレずに成果を出すには、ロジカルにアウトプットし、日本や海外のメンバーだけでなくユーザーと意思疎通ができるコミュニケーション力が不可欠です。英語力を活かしながら各国のスタジオと連携をとるところも魅力だと思いますので、グローバルでチャレンジしたいという方、是非応募お待ちしております。
※本記事は、2025年10月に行ったインタビュー内容です。